“木樽熟成”という魔法のような響きを持った手法があります。
例えば、ウィスキーは透明な原酒をオークなどの樽で熟成することで、あの琥珀色の液体に生まれ変わります。
なんと美しいことでしょう。
私の最初のクラフトビール体験、2014年のポートランドで口にした衝撃の一つが「ワイン樽熟成」のビールでした。赤く、ほんのりとした酸味とポリフェノールが感じられる。まさにワインとビールの両方の特徴を持った1杯でした。
以来、樽熟成はあこがれとなっています。
ウィスキーやワイン、シェリーなどの空き樽は、海外から輸入することができます。
ですが、状態を確認できないですし、わざわざ海外から輸入するというのは、自然な形ではないように思えます。日本のクラフトビールらしい樽熟成の形を考えてきましたが、ヒントになったのは日本酒の酒蔵のおじさんのお話でした。
「日本酒では杉の木樽が使われてきた。ヒノキは香りが強すぎる。杉は香りがついても嫌味がない」
杉なら、徳島県を代表する樹木でもありますし、容易に調達することができます。それもわざわざ樽に加工せず、チップにしてビールにいれることで香りを出すことができるのではないか。
そうして生まれたのがCedar Wheatなどの杉のクラフトビールです。
ホップはニュージーランドのネルソンソーヴィンを合わせました。これはソーヴィニヨンブランという白ワインの香りがするとされるNZを代表するホップですが、これを使ったIPAを飲んだ時、杉と良い部分を出し合える香りだと感じて組み合わせました。
私たちが作る杉のクラフトビールたちは、昨年ひっそりと、徳島県の「とくしま木づかいアワード」を受賞。不健康な状態の森林は大きな問題であり、その有効活用によって、第一次産業や自然環境が良くなっていく、という考えの私たちにとってうれしい受賞でした。
今年も、杉のクラフトビールは少しずつ改良を重ねながら生産していく予定です。