セゾンはベルギー南部発祥のクラフトビールで、農家が閑散期の冬に仕込んで、農繁期の夏に飲んだとされます。クラフトビールの種類の一つではあるのですが、実は味も製法も様々で、どちらかというと「哲学」がスタイルになったもののような気がします。
醸造所を初めて1年半。もう少しで仕込み回数が50回に達します。この期間を振り返って一言で表現するとこんな感じ。忙しかった!
クラフトビールを製造しながら、家業である山小屋関係の仕事をする毎日。どっちつかずになることも多々。でも意味はありました。たくさん仕込んだので、材料や発酵に関する知識や経験、感覚が磨かれたように思います。
でも、考えてみるとうちも農家みたいなもので、春から秋は山で忙しいですが、冬は山の仕事は休みです。二兎を追うのではなく、シーズンを分けて「夏は山、冬は醸造」とした方がよっぽど自然なように思います。
文化になる物には、そうなる理由があるように思います。IPAは長期の航海に耐えるように防腐のためのホップをたくさん入れて生まれたのだし、カリフォルニアコモンは暑い地域なのに低温発酵の酵母しか持ってなかったからできたのです。
山小屋をやっているという制約の中で生まれたクラフトビールには、文化になるポテンシャルはないでしょうか?そんな夢を持ちながら、この冬は実験的なものも含めて、たくさんのクラフトビールを仕込もうと思います。(去年もそうしようと思っていたんだけれど、足の指の骨を折ってしまってできなくて。)
ビールがたくさん売れるのは夏なので、冬に仕込むとなると、必然的に長期熟成型のクラフトビールになります。熟成で個性を出していくブレタノマイセスを使った1本や、貯蔵するという意味のドイツ語が語源のラガーなど。
熟成は14度以下の低温であるべきだと思っていますが、冬は寒いので自然の力で熟成できます。そして何より、パドルブリューが経営する「剣山観光センター」は、標高1450メートルにあるので、夏でも涼しく、自然の状態で熟成ができるのです。
こんな徳島の風土と山小屋が生んだクラフトビールをこの冬は目指してみようと思っています。
創業当初から目指している「人と自然を近づけるクラフトビール」にも変わらず取り組んで行きます。でもこちらは、ちょっと違ったアプローチを考えています。その話は、計画が進んだ頃に。